平成15年2月13日に以下のファックスが、大阪府交野市立郡津小学校の4年生の児童5名の連名で隆月窯に届きました。
社会科の時間でよく伝統産業が取り上げられているそうで、以前、岐阜県内の先生が研究授業の為に取材に来られ発表されたのが、社会科の副読本になったと報告を受けた事があります。
 たまにメールでの問い合わせを頂いていますが、児童たちの字で連絡を頂いたのは初めてなので、ちょっと緊張をしながら美濃焼の伝統産業について現況を含めて回答いたしました。(美濃焼では伝統工芸≦伝統産業なのでそこから説明することにしました。)


土田育弘さまへ
おいそがしいところおじゃまします。
私達は大阪府交野市立郡津小学校の4年生です。
今、学校で伝統産業について学習しています。
そこで、作っている人に仕事の苦労や、やっていて
良かった事など、聞かせてもらいたいと思い
連らくしました。よろしくお願いします。

お聞きしたいこと

  1. 美濃焼は何年していますか。
  2. お茶わんはに作るのに何時間かかりますか。
  3. お皿は1日何こぐらい作っていますか。
  4. 何で美濃焼を作ろうとしたんですか。
  5. 美濃焼は手びねりか水びきろくろのどっちで作っていますか。
  6. 色は何色ぐらいありますか。
  7. 何人でつくっていますか。
  8. 1日どれくらい働いていますか。
  9. 材料は何を使っていますか。
  10. 美濃焼のしゅ類は何こぐらいありますか。
  11. 美濃焼の作り方はどうするんですか。
  12. どんな苦労がありますか。
  13. どんな時によろこびがありますか。
  14. 失敗した作品はどうするんですか。

  みなさん、こんにちわ。隆月窯の土田育弘と申します。
 美濃焼の産地である土岐市の伝統産業はもちろん美濃焼です。美濃焼とは、岐阜県の土岐市・多治見市・瑞浪市・土岐郡を中心とする東濃地方で焼かれる焼物の総称をいいます。美濃焼の歴史は、7世紀にはじめて窯を築いて焼かれた「須恵器」から始まって、平安時代、鎌倉時代、室町時代、そして、世界に誇る「桃山古陶」を作り出した桃山時代などを経て、現代まで続いています。その歴史のながさでは世界でも類を見ない焼き物の産地です。  
 現在美濃焼は二つの流れがあり、その一つは手仕事を中心とする経済産業大臣に指定されている伝統工芸品、もう一つは近代設備から生まれる大量生産品でどちらも大きなくくりでは土岐市の伝統産業で日本の陶器の生産量の60%近くを生産しています。ちなみに私のたずさわっているのは前者の伝統工芸品です。 皆さんの質問には伝統工芸品の事を中心にお答えしたいと思います。



1、美濃焼は何年していますか。

 私は、家業を手伝うようになってから18年たちます。それ以前に陶磁器工業組合で釉薬の仕事を4年間たずさわっていました。
隆月窯は昭和46年に父親が始めたので、今年で32年になります。


2、お茶わんはに作るのに何時間かかりますか。

 水びきろくろでだいたい一日に120〜150個、がんばれば200個くらい作ることが出来ます。
近代設備をしたメーカーでは、自働成型機で2000個〜5000個くらい作る事が出来ます。


3、何で美濃焼を作ろうとしたんですか。

 タタラ成型で六寸皿(18cmくらいの丸い皿)で120〜140枚くらい作ります。焼物皿(焼き魚を載せる皿)は、100〜120枚小さな(9〜12cm)のさらは150〜180枚くらい作ります。
近代設備をしたメーカーでは、圧力い込み、プレス成型、自働成型機で500枚〜2000枚くらい作る事が出来ます。


4、何で美濃焼を作ろうとしたんですか。

 私が小学1年生の時、父親がこの仕事を始めましたので父親の仕事姿を見ていて自分も大人になったらこの仕事を手伝うのだなと思っていたので、特に理由はありません。


5、美濃焼は手びねりか水びきろくろのどっちで作っていますか。

 美濃焼の伝統工芸品(手作り・隆月窯はこちらです。)は主に水びきろくろとタタラ成型をします。
近代設備をしたメーカーでは、主に自働成型機、動力ろくろ、い込み、圧力い込み、プレス成型で作られています。


6、色は何色ぐらいありますか。

 美濃焼伝統的工芸品は、経済産業大臣に指定されている「志野」・「織部」・「黄瀬戸」・「瀬戸黒」・「灰釉」・「天目」・「染付」・「青磁」・「赤絵」・「鉄釉」・「飴釉」・「美濃伊賀」・「美濃唐津」・「御深井」・「粉引」の15種類ありますが、それ以外に各窯元独自の釉薬を作りますので、数をは数え切れません。
 美濃焼産地では、分業化が確立されているので釉薬を作るメーカー(があり、近代設備をしたメーカーでは釉薬屋さんから釉薬を買い求めています。色については伝統工芸品の比でなく数百、もしかしたら数千種類あるかもしれません。


7、何人でつくっていますか。

 隆月窯はいわゆる零細企業に分類される家内工業で家族4人で仕事をしています。


8、1日どれくらい働いていますか。

 だいたい8時間ですが、お客様のご要望で納期に間に合わせるように多い時は17時間仕事をする時もあります。
ただし、従業員を抱えるメーカーでは週40時間就労制が定着しています。


9、材料は何を使っていますか。

 現在は物流が日本全国に広がっていますので、作るものに適した陶土を日本各地から取り寄せ窯元独自の配合で使っていますが、下記に挙げられている15品目を作る時には産地で採取される粘土を使っています。


10、美濃焼のしゅ類は何こぐらいありますか。

 美濃焼伝統的工芸品は、「志野」・「織部」・「黄瀬戸」・「瀬戸黒」・「灰釉」・「天目」・「染付」・「青磁」・「赤絵」・「鉄釉」・「飴釉」・「美濃伊賀」・「美濃唐津」・「御深井」・「粉引」の15品目が経済産業大臣に指定されています。主に飲食器・花器・茶陶が作られています。
 近代設備で生産されるている焼き物は、アイテムはペット用品(小鳥の水差し)から骨壷迄皆さんの身の回りにある物はたいていの物が作られています。


11、美濃焼の作り方はどうするんですか

 伝統工芸品は主に水挽ろくろ、タタラ成型で作られています。
他に大量生産では、凹形の石膏型の中に泥状にした粘土を入れて作るい込み成型、泥状にした粘土泥を圧縮空気で石膏型の中に送り込んで形を作る圧力い込み成型、凹形の天板をしたろくろに凹形の石膏型をはめ込んで、その中に粘土を入れて回転させ、上からコテで粘土を押さえつけて作る機械ろくろ成型、それを全て機械が行ってしまう全自動成型、凹形の石膏型にたたら板を乗せて上から乗せたたたら板を凸形の型を油圧で押さえつけて作るプレス成型があります。


12、どんな苦労がありますか。

 中国製品が安価で大量に市場に出回るようになり、市場を奪われた大手メーカーがなんちゃって手作り(手作りに似せた型物 注1)を安価で私達の持つ市場に出して来ているから、目利きが出来るお客様が少なくなったのと、家庭内における通信費(注2)の割合が増えたのも手伝って、安価な機械作りの商品に市場を奪われる中でいかに差別化をはかり、手仕事の良さをアピールでき、値ごろ感でお客様に提案し購入してもらえる商品の開発に苦労しています。

注1 手作り品を手仕事物、石膏型を使って大量に作った商品を型物と言い分けています。
注2 携帯電話、インターネットの普及で通信維持費が昨今の経済状況下では、家計費の中でかなりの割合を占めていると思われます。


13、どんな時によろこびがありますか。

 商品をお求めになられた方から「使いやすかったよ」とか「プレゼントした人からすごく喜ばれたよ」なんて聞いた時に、この仕事していてよかったなぁって思います。


14、失敗した作品はどうするんですか。

 失敗した作品ですが、素焼き前に失敗したものは水につけて土にもどして次の作品に使います。素焼き以降に失敗した作品は粉砕して行政が用意した処分場にもっていって埋め立てられます。


児童からのお礼の手紙が届きました。 一部を近日中にお知らせする事が出来ると思います。

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